高齢者、障がい者の方の訪問整体は、現在、長い人で7年、そして1年、半年、4ヶ月と毎週、隔週継続してくださってる方がいらしゃいます。デイサービスでの施術も合わせると25人くらいでしょうか。

ご家族の方と直接にご契約をいただいてる方は、ご家族の方と会ったり、ノートやLINEなどでご様子をお伝えしながら、施術を進めていきます。体に触れるということは慎重に行わないといけないことなので、ご本人とのコミュニケーションが難しい場合は、できる限りご家族の方にお話しを伺います。そして私の施術に関してもお伝えします。でも、デイサービスなど施設との契約の場合は、ドクターやナースとお話しが伺えることがあっても、ご家族の方とお話しする機会はまずありません。このことは気になりつつも、施設に伝えることをしないままでいます。

今回5年間、訪問整体に伺っていたご家族の方から感想を送っていただきました。リラクゼーションということだけでなく、どういう方向性で施術を行っていくのかなど、ご家族の方が真剣に話しを聞いてくださる姿勢に、お母様への深い愛情を感じました。

私は施術者として、お客様に安心していただくことが大切だと考えています。そこからさらに信頼関係が深まればうれしいですし、それがあるからこそ、体も変化していくと思います。たとえば、受けていただいても、「この整体、大丈夫かな」「この人のことを信用してもいいのか」なんて不安な気持ちのままでは、良い方向にいくとは思えませんよね。ご本人が受けてくださるときももちろんですし、ご家族の方が受けてくださる場合はキーパーソンの方とコミュニケーションをとって、まずは安心していただくことが大切だと思うのです。

本当はここまで真剣に考えていただきたい、セラピスト任せではなく、ご家族の方といっしょに寄り添う形で行いたい、と考えています。

5年間関わらせていただいて本当に勉強させてもらいました。このように深く考えて、感想を書いていただいたことに感謝しております。

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当家では2010年~2015年までの5年間に計60回の訪問整体を野上療法士にお願いをした。対象は私の82歳になる母親で、母は要介護5の片麻痺状態でほぼ寝たきりに状態であった。当時、当家には10数人のセラピストが出入りしていたが、私が野上セラピストに求めたのは「身体の力を緩める」事にあった。

効果というものは、優秀な療法士がいれば現れるという単純なものではない。まず、セラピストが己の力量を知り、依頼する側はケアを受ける本人または代理人(キーパーソン)がケアを受ける本人の体調を知り、そして何をして欲しいか、どういうケア望むのかという明確な目的意識を施術者に伝え、施術者は自身に何ができるかを利用者に明確に伝え、出来ることを探りながら双方の理解を基軸としてケアを積み重ねていく上で現れる。つまりケアに至るまでに充分なアセスメントとヒアリングを行うことだ。

そこには「良いと聞いたから」とか「貴方の
人柄を信用して」といったような感情論に端を発した無根拠なモチベートを排除しなければならない。セラピーというものは、はっきり言って単体で効果を発揮するものではない。当家では、理学療法、作業療法、言語療法を始め、音楽療法、ドッグセラピー、メイクセラピー、園芸療法、芸術療法、カラーセラピー、アロマ
テラピーといったセラピーを利用してきたが、それ自体の単体の効果などというものはたかが知れている。一時的な効果はあってもそれは決して長続きしない。セラピーは例えるなら、ジグゾーパズルやパッチワークのようなもの。肉体的・精神的なあらゆる刺激やアクティビティーを常に与えなければならないが、そこに連動する相乗効果は足し算ではなく掛け算となって初めて効果を発揮するものなのだ。人体の構造や精神の構造というものが複雑なメカニズムで構築されているとするならば一つや二つのセラピーで何とかなる道理がないのである。

野上療法士の施術の目標を色々聞きながら考えた。「快便」「ダイエット」「身体の力を緩める」など話を進めていく中で当時最も困っていたことが母の入眠の不安定さだった。所謂「快眠」出来ない状態にあった。このことで悩む高齢者介護の家族は多い。下手をすると昼夜逆転となり、認知症が一気に進むという報告もある。夜に寝られないのは、興奮状態が続いて身体の力が抜けないためである。高齢者は外出などしても疲れが先に来ずに興奮が先に来て中々寝付けない状態が多い。

そこで野上療法士にお願いしたのは「身体の力を緩めて緊張を緩和して欲しい」その一点だけである。「快便」に関しては訪問看護が排便コントロールをしているため、却ってそれを促して貰うのは困ると伝えた。野上療法士の素晴らしいのは「他のナースやセラピストが行っている施術内容を克明に聞き取り、それとは内容が被らないように配慮する」事である。功を急がず、出来ること・望む事に真摯に取り組んでいく、そこから施術がスタートした。

効果はすぐに現れた。施術を受けたその夜から母は熟睡し、翌朝は起床時間にきちんと起きた。それが母が他界するまで5年間続いた。我々はケアに入るまでに少なくとも30分は本人の状況変化と報告を行い、どういうケアを今回施していくかを確認した。そして施術が終わってからも施術者からの報告とそれに伴って次回への課題や注意しておくべきことなどを確認し合った。

良い効果を得るためには、依頼者側と施術者側の双方の理解と報告があること。人間の体は常に変化するものであるならば、それに対するモニタリングやヒアリングも常時行うべきである。そのためにはセラピストには技術のみならず、観察力や洞察力も要求されるし、それがセラピストのスキルというものだろう。またケアを受ける側にも、本人か代理人がきちんとした経過報告と方針をきちんと立ててセラピーを理解する必然性がある。

「我々は素人だから何もわかりませんので先生におまかせします」などという対応しかできない者にセラピーを受ける資格はない、と断言したい。野上療法士が習得されてきたダーマセラピーや介護操体に関しては私も特別研修を催して他のセラピスト、ヘルパー、ナースにも体験させたし、その理論理屈に耳を傾け、また実践することで理解を深める意識が必要であると思っている。これを大袈裟と思われる向きもあるかと思うが、施術というものには人命が必ず介在する。その生命の重みを感じないと施術の意味も理解出来ないはずだ。またそういった理解を我々依頼者側がしていかないとせっかく縁あって施術に来られる野上療法士に対して失礼というものであろう。

野上療法士は時代の流れとともにケアもバージョンアップされ、気流術やシルヴァーヴァイオレットフレームなど他の要素とも融合されながら、ダーマセラピーにとどまらない独自の境地を開拓されている。今後の彼女の躍進と精進に期待と賞賛を捧げたく思う。